エクスパンションとは、カスタマーサクセスにおけるフェーズのひとつです。アップセルやクロスセルなどの施策により、お客様の自社商品・サービスの利用をさらに拡大します。
本記事では、カスタマーサクセスで行うエクスパンションフェーズの概要や施策例、メリット・デメリットを解説します。成功させる方法も紹介しますので、参考にしてください。
カスタマーサクセスにおけるエクスパンションとは
エクスパンション(Expansion)は「拡張」と訳され、カスタマーサクセスにおいては「お客様の利用拡大」を意味します。お客様の成功体験を実現させる取り組みであるカスタマーサクセスにおいて、オンボーディング・アダプションに続く3番目のフェーズにあたります。
アダプションによって定着したお客様の商品・サービスの利用を、さらに拡大していく段階です。具体的には、お客様の利用単価を上げる施策であるアップセル・クロスセルを行います。
特にサブスクリプション型のサービスの場合、売上を継続的に維持・拡大するため、エクスパンションの成功が欠かせません。
エクスパンションの成功は、顧客満足度を測る指標にもなります。施策の過程で、提供している商品・サービスが適切であるか、どのような課題があるかの確認もできるでしょう。
エクスパンションフェーズの施策例
エクスパンションフェーズでは、アップセル・クロスセル・ダウンセルという3つの施策があります。それぞれの内容をみていきましょう。
アップセル
アップセルとは、商品・サービスを利用しているお客様に対し、高価格帯の商品や上位プランを推奨することです。より高額な商品・サービスを勧めることで、お客様一人あたりの単価を効率的に引き上げることを目的に行います。
例えば、サブスクリプションサービスの通常版を利用しているお客様に対し、上位のプレミアム版へのアップグレードを勧めたり、フリープランの利用客に有料プランへの移行を促したりする施策を指します。
アップセルにより、新規顧客獲得のコストをかけることなく収益を上げることができる点がメリットです。
クロスセル
クロスセルとは、商品・サービスを利用している、もしくは利用を検討しているお客様に対して、関連する別の商品・サービスやオプションも勧めることです。
より高価な商品・サービスの利用を勧めるアップセルに対し、クロスセルは別の商品・サービスをセットで利用してもらうことで顧客単価を引き上げます。
例えば、ECサイトで商品の購入を検討しているとき、「よく一緒に購入されている商品」「この商品を購入した人はこんな商品もチェックしています」という項目が表示されるケースが、クロスセルにあたります。
ダウンセル
ダウンセルとは、アップセルと反対に、お客様が想定している商品の下位商品・サービスを紹介することです。
予算や希望の価格に合わない、そこまでの高い性能を必要としないといった状況がある場合、お客様は解約や利用の見送りを検討する可能性があります。そのような場合に当初よりも価格の低い、もしくは利用状況に合った商品・サービスを提案し、購入・継続利用を促す手法です。
価格や価値とのギャップをなくし、長く継続的に利用してもらうことを目的に行います。収益がなくなることを回避できるため、アップセル・クロスセルとともに重要な施策です。
エクスパンションの計算・分析方法
エクスパンションの効果がどれだけあったかを知るためには、エクスパンションMRRやコントラクションMRRで計算できます。
MRRとは「Monthly Recurring Revenue」の略で、「月間経常利益」のことです。
エクスパンションMRR
エクスパンションMRRは、前月より取引額が多いお客様の利益を確認する指標です。
計算は、アップセル+クロスセルで求めます。
以下のプランを設けているサブスクリプションサービスを例にして、計算してみましょう。
- スタンダードプラン:月額5,000円
- プレミアムプラン:月額1万円
- サポートサービスのオプション:月額200円
3月から4月にかけて、3人のお客様がスタンダードプランからプレミアムプランにアップグレードし、2人のお客様がサポートサービスのオプションを追加した場合、4月の月間経常利益は次のとおりです。
(3人×5,000円)+(2人×200円)=1万5,400円
4月のエクスパンションMRRは、1万5,400円になります。
コントラクションMRR
コントラクションとは、ダウングレード等によって前月よりお客様との取引額が下がることです。コントラクションMRRは、収益減について知るための月間の指標を指します。
例えば、前の例で5人のお客様がプレミアムプランからスタンダードプランにダウングレードした場合、コントラクションMRRの計算式は次のとおりです。
(5人×−5,000円)=−2万5,000円
4月のコントラクションMRRは、2万円5,000円になります。
エクスパンションのメリット・デメリット
エクスパンションフェーズで効果を上げることで、LTV(顧客生涯価値)の向上というメリットを得られます。
その一方で、エクスパンションにはアプローチを間違えると解約されるというリスクがあります。
ここでは、エクスパンションのメリット・デメリットをみていきましょう。
【メリット】LTV(顧客生涯価値)が向上する
エクスパンションはすでに自社のサービスを利用しているお客様に向けてのアプローチであり、新たにお客様を獲得するよりもコストをかけずに収益を上げられる点がメリットです。
また、エクスパンションMRRの向上は顧客満足度を示す指標にもなり、新商品・サービスを発売した際に利用してもらえる機会が増えると考えられます。
その結果、LTV(顧客生涯価値)が向上する点がエクスパンションの大きなメリットです。LTVは、お客様が生涯でどれだけ利益を生み出すかを示すもので、業績アップや企業の成長につながる重要な指標です。
【デメリット】解約のリスクがある
エクスパンションには、デメリットもあります。アップセル・クロスセルを強く推奨しすぎると、お客様に敬遠されて解約のリスクがあるという点です。
お客様のニーズや事情を考えずに強引な営業を行うと、お客様の信頼を失います。他社に流れてしまう可能性があるでしょう。
それぞれのお客様の利用状況や頻度などを分析し、お客様ごとに適切なアプローチを考えることが必要です。
エクスパンションを成功させるためのポイント
エクスパンションを成功させるためには、いくつかのポイントを押さえることが大切です。
ここでは、成功のための条件や方法を紹介します。
オンボーディングとアダプションをしっかりと行う
お客様の成功を目指して支援するカスタマーサクセスの施策は、次のような4つのフェーズに分けられます。
- オンボーディング
- アダプション
- エクスパンション
- プロダクトフィードバック
3つ目のフェーズであるエクスパンションを適切に実施するためには、お客様の自社サービス利用が定着しており、活用されていなければなりません。
エクスパンションの成功は、オンボーディングとアダプションを十分に行っていることにかかっているといえるでしょう。
オンボーディングとは
オンボーディングとは、お客様が自社の商品・サービスを使い始める初期段階のフェーズです。サービスにおいては、お客様がサービスを導入してから実際に運用を始め、定着するまでの期間を指します。実際にオンボーディングが完了したといえる指標は、提供するサービスによって異なるでしょう。
オンボーディングにおける経験は、お客様の全体的な満足度や商品・サービスへの理解に影響を与えます。利用定着を促し、顧客ロイヤリティを育むためにも大切な段階です。
具体的には、お客様が商品・サービスの機能やメリットについて理解し、スムーズに利用できることを支援します。
サービスの解約を防ぐためには、契約後、サービス利用への熱量が高い間にオンボーディングを完了させることが大切です。
エクスパンションを成功させるためには、オンボーディングのフェーズで、エクスパンションを見据えた目標設定をする必要があるでしょう。
アダプションとは
アダプションとは、お客様が購入・契約した商品・サービスを使いこなせるようになるために支援することです。
アダプションのフェーズは、お客様が本格的に商品・サービスを活用している段階です。このフェーズにおけるカスタマーサクセスは、お客様が商品・サービスを最大限に活用し、ビジネスの価値を引き出すことを支援することを最大の目的とします。
アダプションのフェーズで成功することにより、顧客満足度とロイヤルティが高まり、長期的に継続利用してもらえる可能性が高まります。
この段階では、お客様のエンゲージメントの維持・向上を図ることが大切です。お客様と定期的にコミュニケーションをとり、問題が発生した場合には迅速にサポートするといった対応が求められます。
自社サービスがお客様の業務で活用されることは、アップセルにつながる可能性も高まります。サービスがどのくらい活用されているかを継続的に確認し、より顧客の成功につながるための活用方法を提案していくことが大切です。
顧客のニーズを探る
エクスパンションの段階でアップセル・クロスセルの提案を行うためには、お客様と信頼関係を築き、ニーズを把握することが求められます。信頼関係がない相手からの提案には、興味・関心が湧きにくいでしょう。また、ニーズに合わない提案をされても、魅力を感じられません。
日頃からお客様の声に耳を傾け、ニーズをチェックしましょう。公式サイトに問い合わせフォームやアンケートを設置しておけば、お客様の意見も集めやすいでしょう。
定期的に面談の機会を設け、利用状況の確認や課題のヒアリングを行うのも効果的です。お客様との接点を増やしてやり取りのデータを蓄積していけば、お客様の細かいニーズを把握しやすくなります。時間をかけて信頼関係を築きながら、エクスパンションの適切なタイミングを考えましょう。
顧客満足度を高める
エクスパンションの成功には、顧客満足度の向上が欠かせません。顧客満足度が高いことは商品のリピート購入や、契約更新につながります。
満足度が低いお客様に対してはエクスパンション施策を実施することができないため、顧客満足度が高いことがエクスパンションを行う前提条件です。
顧客満足度を向上させる施策には、次のようなものがあげられます。
- きめの細かい対応を行う
- アンケート等でお客様の声を定期的に確認する
- お客様に対しスムーズに情報提供できる仕組みを作る
- お客様の期待を超える商品・サービスを提供する
- システムを導入して業務効率化を図る
また、エクスパンションフェーズで特に重要なことは、単に売上を増やすことを考えるのではなく、お客様の成功を追求し続けることです。そのためには、自社の商品・サービスを活用し続けることが、お客様のビジネスにさらなる価値をもたらすという点を示さなければなりません。
関連情報を提供する
お客様のニーズを把握したら、それに関連する情報を提供します。ニーズに合う新機能ができたら、アップデートの情報を素早く伝えましょう。公式サイトにも新機能の紹介や活用事例など豊富なコンテンツを掲載し、メール等で周知すれば、お客様のニーズに合った情報提供ができます。
サイトにはレコメンド機能を設け、読まれたページのデータから、より掘り下げた情報を提供できるようにしておくのも効果的です。
重要なのは、お客様にとってちょうど良いタイミングで情報を届けることです。必要とするときに適切な情報が提供されれば、お客様はサービスの価値を再認識するでしょう。そこでアップセル・クロスセルの提案を行えば、自然な流れでエクスパンションの成功が導かれます。
エクスパンションの提案を実効化させるためには、提案を受け入れた顧客がスムーズに行動できるラインナップを整えることも大切です。
例えば、アップセルにおいては、「より価値の高い商品の購入」や「上位カテゴリーの商品・サービスへの移行」などに対応したラインナップを用意しておかなければなりません。
顧客体験で他社と差別化する
エクスパンションフェーズでは、競合他社との差別化も重要なポイントです。他社との競争ではコモディティ化が進み、自社の商品・サービスの市場価値が低下することもあるでしょう。
競合他社と差別化するために役立つのが、優れた顧客体験の提供です。充実したサポート体制など、自社の商品・サービスでなくてはならないと思わせる顧客体験を提供するための戦略が必要です。
追加提案のあとは、定期的なアフターフォローを行いましょう。お客様の満足度を確認し続けることで、信頼関係の構築と長期的な継続利用につながります。
アフターフォローにより、お客様の声やフィードバックを収集できます。追加商品の購入やサービスのアップグレードをしてもらったら、その感想や利用状況について確認することで、顧客満足度や課題を把握できるでしょう。
アフターフォローはお客様とコミュニケーションを行う大切な機会であり、お客様のニーズや要望を把握し、それに応じてさらにサポートや提案を行うことができます。定期的にアフターフォローを行うことで、お客様は自分が大切にされていると感じ、企業やブランドに対する信頼感を高めるでしょう。顧客ロイヤルティの向上にもつながります。
エクスパンションは顧客の利用をさらに拡大するフェーズ
エクスパンションの成功は顧客満足度の向上を表す指標となり、長期の継続利用を実現してLTV(顧客生涯価値)の向上をもたらすでしょう。
ただし、エクスパンションは方法を誤ると解約のリスクがあり、自社の信頼を失うことにもなります。お客様のニーズを正確に把握し、適切なタイミングで行わなければなりません。
エクスパンションではお客様へのアプローチでメールを使うことが多いですが、その際に役立つのがメール配信システムのメールディーラーです。
メールディーラーは、チーム全員のメールの対応状況を可視化できるシステムです。対応状況に応じて自動でメールを振り分けられるため、返信漏れや二重返信を防止します。メールテンプレート機能や、マニュアルとして使用できる機能があり、対応レベルの品質向上にも役立ちます。
カスタマーサクセスのエクスパンションを成功させるため、ぜひメールディーラーをご活用ください。
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