情報システム部門こと「情シス」は、企業の「IT専門家」として重要な役割を果たす部署です。具体的には自社の基幹システムの開発や社内インフラの構築、保守・管理などのほか、社内のIT機器に関する問い合わせ対応なども行います。
ITや通信技術が発達した近年、基幹システムや社員が使用するパソコンなど、IT機器なくしては、企業運営はできないほどになりました。
しかし企業内で情シスは、さまざまな理由からコストセンターとみなされがちです。情シスにおいて、コスト削減はどのように進めれば良いのでしょうか?
今回は、情シスが取り組むべきコスト削減策にはどのようなものがあるのか、実施に際しての注意点も含めて解説します。
情シスを悩ませるコストの増大
情シスはコストが増大しがちで、社内では「コストセンター」とみなされる傾向があります。まずはなぜ情シスではコストが増えてしまうのか、理由を確認しておきましょう。
コストセンターといわれがちな情シス
ITや通信技術が発達し、政府がDXを推し進める今、企業は「攻めのIT」が必要といわれています。攻めのITとは、クラウドに移行する、SaaSを導入する、ビッグデータを活用するといった、従来のブラックボックス化したレガシーシステムを大切にただ守る姿勢からの脱却を意味します。
しかし攻めのITを実践するには、新たなシステム開発やIT機器の導入など高額なコストが発生します。事業の発展に欠かせないと理解はするものの、多くの経営者はコストをかけることには慎重になりがちです。
さらに情シスがどれだけ企業に貢献しようと努力しても、営業のように直接利益を生み出すことはありません。そのため情シスはコストだけがかかる「コストセンター」とみなされてしまう傾向があるのです。
人的コストも増大傾向に
情シスは、IT機器導入やDXの実践にコストがかかるだけではなく、人的コストも増大しているといわれています。
今やDXはあらゆる企業が抱える優先課題であり、社会全体でIT人材は不足しています。そのため優秀な人材を獲得するには、高額なコストがかかるようになりました。
人を補充したくてもなかなか見つからず、さらに優秀な人材の採用は人件費が高くなるため、企業はそう簡単には人を増やせません。そうすると情シス部門の負担はどんどん過重になり、通常の就業時間内では仕事がおさまらず、残業コストがかさみます。
このようにして情シスは、どんどんコストセンター化していくのです。
コスト増大のよくある要因
上述の通り情シスはコストセンターとみなされがちですが、コストが増大する箇所・要因というのはある程度パターンが決まっています。
ここでは、情シスのコストが増大するよくある要因について解説します。どのような要因がコスト増大に繋がっているのか把握しておきましょう。
システムの複雑化
近年の企業活動では、業務効率・パフォーマンス・スピードを高めるために、ITシステムの積極的な活用が重要視されている状況です。しかし、ITシステムは年々高度化・複雑化の様相を見せており、導入・管理・メンテナンスの工数も増加傾向にあります。
情シスが対応する業務範囲・業務量も当然増えるため、導入・開発コストに加えて業務に要する人的コストが増加しているのが現状です。
このように高度化・複雑化するシステムに対処しなければならないことも、情シスのコストが増大する大きな要因となっています。
古いシステムを使い続けている
国内の多くの企業では、レガシーシステムと呼ばれる開発から長い期間が経過した旧型のシステムが現役で稼働しています。同システムは長い年月の間に追加開発・改修・更新を何度も繰り返しているため内部構造が複雑化しているケースが多く、老朽化によるバグや不具合の発生頻度も高いことから、保守・運用に大きな工数・コストがかかるという問題を抱えています。一説では、レガシーシステムの保守・運用コストはIT関連予算の8割以上を占めるとも言われているため、安易に無視できない問題です。
レガシーシステムは最新のシステムに代替させることが推奨されていますが、業務を止められない理由から容易には実施することができず、保守・運用に携わる情シスのコストを増大させる大きな要因となっています。
セキュリティ対策への投資
重要な情報を大量に扱うITシステムは、セキュリティリスクが発生すると企業にとって大きなダメージとなるため、業務効率やパフォーマンスを求めるだけでなく万全のセキュリティ対策を行っておくことが必須です。
ところが、上述の通りシステムが高度化・複雑化しつつあることや、サイバー攻撃の手口の高度化・巧妙化といった要因により、近年では必要なセキュリティ対策の種類・工数についても増加している傾向にあります。
一般的に企業のセキュリティ対策は情シスが担当するため、対策に要する機材・ノウハウ・人的コストといったセキュリティ対策への投資がコスト増大を招く大きな要因となっています。
情シスによるコスト削減のポイント
情シスは経営陣からコストセンターと捉えられがちであるため、業務の質を担保しつつ無駄なコストを削減していくことも重要となります。
情シス部門で考えられるコスト削減の方法には、主に次のような方法があります。
ITコストの把握・精査
情シスのコスト削減を的確に行うためには、まずは「どの業務に」「いくらのコストが」かかっているのかを把握することが重要なポイントです。業務に対するコストを可視化することで、不要なコストを明確化することができるため、的確かつ効率的にコスト削減を進めて行くことができます。また、必要な業務に対するコストを誤って削減してしまうリスクを防ぐことが可能です。
ITコストは実態が見えにくいため、行き当たりばったりのコスト削減を行ったのでは良い結果には繋がりません。根拠のある判断を行い、的確なコスト削減施策を推進するためにも、必ずITコストの把握は行うようにしましょう。
アウトソーシングの活用
情シスの業務は自社で内製するイメージが定着している傾向がありますが、他の業務と同じくアウトソーシングができます。近年では情シスのアウトソーシングを請け負う企業の数・サービスラインナップも充実してきており、必要な業務を必要に応じて発注することが可能です。例えば、情シスのアウトソーシングでは次のような業務を発注することができます。
- 社内システム・インフラの開発・保守・運用・監視・パッケージ導入
- 各種セキュリティ業務(監視・対応・施策・ポリシー策定)
- ヘルプデスク業務(問い合わせ対応・運用サポート・トラブル対応)
- IT資産管理業務の活用
当然アウトソーシングにはコストが発生しますが、自社で人材の採用・育成を行って給与を支払うよりも安価で済むケースが多いため、トータルで考えるとコストの削減に繋がります。
情シスのリソース不足・スキル不足・採用難などの課題を抱えている方は、ぜひ検討してみることをおすすめします。
既存のアウトソーシングコストの見直し
すでに業務をアウトソーシングしている場合は、コストの見直しも実施しましょう。
たとえばシステムの開発を要件定義などからすべて丸投げしてしまうと、コストは割高になってしまいます。上流工程にあたる部分は自社で行うようにし、単純なタスクのみアウトソーシングすれば、外注コストを抑えられます。
またアウトソーシングする際には、受託事業者向けにRFP(提案依頼書)を作成するのもおすすめです。RFPを作成すると、自社がシステムを通して達成したい目標や、予算や納期を示したうえで外注できるようになります。そうすることで齟齬が生じにくくなり、外注コストだけでなく品質や納期の担保にもつながります。
リースの活用
情シスが策定したIT戦略を実現するために、新しいIT機器を導入するにあたり、初期費用を抑える目的でリースを活用するのもコスト削減につながります。
リースは長期的に見ると、コストがかかることがほとんどです。その反面、事業の方針転換があったときのアップグレードやダウングレードの対応が容易です。また、常に最新機種を活用できるメリットもあります。
クラウドへの移行
自社にサーバーを置いている場合には、クラウドへ移行するのもコストを削減する方法の1つです。
自社サーバーは、保守運用やメンテナンスコストがかかるだけでなく、セキュリティの問題もあります。クラウドサービスでの運用に切り替えれば、格安の初期費用を払ったうえで月々の運用費用も数千円〜数万円程度におさまります。
ただし導入に際しては、サービスの仕組みや信頼性、セキュリティの堅牢性をしっかりと精査しなければなりません。クラウドへの移行が原因で問題が発生するようなことがないよう、慎重に進めましょう。
システムの統合
社内で類似のシステムが点在している場合には、統合することでもコストダウンが可能です。自社内だけではなく関連企業もあわせて統合を進めれば、大きなコスト削減につながります。
しかし個々の部署や企業内で部分最適となっていたシステムを全体最適する場合、情シスが強いリーダーシップを発揮しなければ実現しません。それぞれの要望や思惑に振り回されず、うまく立ち回らないと、部署間や関連会社間で摩擦が生じてしまうためです。
システム統合をうまく進めるためには、情シスがその目的を明確にし、関係者間の調整を進めることが重要です。
業務の効率化・自動化を進める
情シスが業務量の多さ・業務範囲の広さという課題を抱えている場合には、できるだけ多くの業務をツールに代替させて自動化することが効果的です。自動化を行うことで、情シスの絶対的な業務量・業務負担・業務時間を削減できると同時に、コストの削減を図ることができます。自動化できない部分に関しても、ツールを導入して効率化することはできる可能性があります。
ツールを活用し自動化・効率化することで、空いたリソースを本来の業務やより重要な業務に振り分けることが可能です。
情シスの業務自動化・効率化に貢献する主なツールには、以下のようなものが挙げられます。
チャットボット
問い合わせ対応・社内ヘルプデスクを自動化。365日24時間対応を行い情シスの業務負担を大幅に低減できる。
RPA
定型業務の自動化が可能なツール。ロボットを作成してできるだけ多くの業務を代替させることで、ノンコア業務を大幅に低減できる。
ITシステム運用・管理自動化ツール
煩雑・複雑なITシステムの運用・管理のプロセスをツール上で一元管理・自動化できるツール。情シスに常時発生するITシステムの運用・管理業務の負担を大幅に低減できる。
問い合わせ管理システム
問い合わせを複数人で対応したり、管理するのを効率化するシステム。ヘルプデスク業務の負担を低減できる。
チャットボット・RPA・問い合わせ管理システムついては、後の章で詳細を解説していますので、ぜひご参考ください。
情シスのコスト削減における注意点
ここからは、情シスでコスト削減する際の注意点を4つ解説します。
IT戦略におけるリーダーシップを持つ
多くの企業では、経営陣からのトップダウンで新たなITシステムの導入から既存システムのリニューアルまで決断が下されるケースが多くあります。しかし、企業のITが関連する業務全般について、業務の重要性と必要コストの両面を最も把握しているのは、経営陣ではなく情シスです。
そのため、IT戦略の推進やコスト削減を実施する際には、情シスがリーダーシップを持ち、積極的にITシステムの取捨選択の判断やコストの配分について介入を行う姿勢が重要となります。現場を熟知している情シスであれば、合理的かつ現実的な判断のもとパフォーマンスを確保しつつ無駄なコストを削減することが可能です。情シスが担う無駄な業務も省けるため、情シスのコスト削減にも繋がります。
実際には情シスがリーダーシップを持つことは難しい状況が多いため、IT戦略・コスト削減などで結果を出したいのであれば、経営陣が主導して情シスがリーダーシップを発揮できる体制を構築することが重要となるでしょう。
シミュレーションを行う
情シスでコスト削減策を実行するときには、事前に十分シミュレーションすることが大切です。
たとえばコスト対策として新しいシステムを導入する場合、シミュレーションが不足していたら十分な成果を得られない可能性があります。またコストばかりに注目していると、操作性が悪くて使いづらく、かえってパフォーマンスが落ちてしまうこともあるでしょう。
そのような失敗は、事前にシミュレーションすれば防げるものです。一度導入してしまうと後戻りできないケースも多いので、事前チェックは念入りに行いましょう。
ランニングコストに着目
総合的にコスト増を招くのは、ランニングコストが増大することが原因となるケースが少なくありません。イニシャルコストの削減にばかり気を取られずに、ランニングコストがどれくらいになるのかも慎重に試算しておくことも重要です。
システムを導入したことで、かえって情シス担当者の手間が増えてしまったり、社員の作業効率が落ちてしまったりしては意味がありません。
コスト削減を図るときには、情シスだけで進めるのではなく、実際にシステムやIT機器を使用する現場の担当者も巻き込んで、全社的に取り組むことが大切です。
コンサルタントへの依頼もおすすめ
情シスとして本格的にコスト削減に取り組むのであれば、コンサルタントに入ってもらい、専門家の意見を聞きながら進めるのもおすすめです。
情シスだけでコスト削減に取り組もうと思っても、情報を集めて分析し、何をどのように進めていくかを考えるだけでも膨大な時間がかかります。そんなときコンサルタントに相談すれば、これまでの経験やノウハウから、プロの目線でのアドバイスが期待できるでしょう。
コンサルタントに依頼するには費用がかかりますが、ITコストの削減に成功すれば、結果的には安くつくと考えられます。どの程度のコスト削減が期待できるのか、まずは無料相談してみると良いでしょう。
情シスのコスト削減を後押しするツール
情シスのコスト削減にはチャットボット・RPA・問い合わせ管理システムによる業務の自動化が効果的であると先にご紹介しました。ここでは、情シス業務の自動化・効率化に大きく寄与するこれらのツールについて、概要・メリット・活用方法などをより詳しくご紹介します。
ヘルプデスク対応を軽減する「チャットボット」
情シスのヘルプデスク対応の負担を軽減するには、チャットボットが役立ちます。
チャットボットとは、チャット(chat=会話)とロボット(robot=ロボット)を組み合わせた言葉で、自動応答システムを指します。通販サイトやホテルの予約サイトの片隅に、「何か質問はありませんか」と小さなチャットウィンドウが開いているのを見たり実際に使ったりしたことがありますか?あれがチャットボットです。
チャットボットを導入すると、社内ヘルプデスクに寄せられる問い合わせのうち、「エラー番号〇〇の内容を教えてほしい」といったマニュアルを見ればわかるような定型質問への回答を任せられるようになります。情シス担当者はチャットボットが回答できない問題にだけ対応すれば良くなるので、対応業務の大幅な削減を実現できます。
毎日のルーティン業務を効率化する「RPA」
RPAは、Robotic Process Automationを略した言葉で、人間が主にコンピューター上で行っている定型業務を自動化するツールを指します。決まった手順で繰り返し行うような業務を自動化するのに、RPAは役立ちます。
情シスでルーティンワークとして行っているデータの抽出と分析といった定型業務をRPAに任せれば、短時間で業務を終えられるようになるうえ、人的ミスも防げるので効率的です。空いた時間はより重要なコア業務に費やせるため、生産性も向上します。
ヘルプデスク業務を効率化する「問い合わせ管理システム」
問い合わせ管理システムは、複数人での問い合わせ対応に特化したシステムです。複数人で同じ画面を見ながら問い合わせ対応を行うことができ、問い合わせごとに対応状況や担当者が可視化されるため、返信漏れや遅れ、重複対応を防止できます。
おすすめ問い合わせ管理システム「メールディーラー」
問い合わせ管理システムの中でも特におすすめな「メールディーラー」について紹介します。
Point
- チームでのメール共有に特化
- メールの見落としや返信漏れを防止
- レポート機能で問い合わせ内容の分析が可能
メールディーラーとは、株式会社ラクスが提供するinfo@やsupport@などの共有メールアドレス宛に届くメールを複数人で対応することに特化した問い合わせ管理システムです。
チーム全員のメールを対応状態ごとに「新着」「返信処理中」「対応完了」のステータスに自動で振り分けてくれます。どのメールにだれが対応しているのかリアルタイムで共有できるので、対応状況がひと目でわかり、メールの見落としや返信漏れを防ぐことができます。
また、メールごとに属性情報を付与することができ、メールディーラー上のレポート機能で簡単に集計ができます。
問い合わせ内容を分類しておくと、どういった問い合わせが多いのかを分析することが可能です。分析結果をもとにFAQページを充実させるなど、問い合わせ件数を削減する施策に活用いただけます。
コストパフォーマンスにも優れており、無償で専任担当者によるきめ細かいサポートが付随しているため、初めての方にもおすすめできる製品です。
自社に合った方法で情シスのコスト削減を
情シスは導入するIT機器が高額であること、人材不足から人件費が高騰しやすいことから、企業内で「コストセンター」と見られがちです。情シスでコストを削減するためには、業務のアウトソーシングやIT機器のリースを検討する、システムやサーバーのクラウド化を進めるなどいろいろな方法が考えられます。
なかでもまずはノンコア業務である問い合わせ対応を効率化できる、問い合わせ管理システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。/
※本サイトに掲載されている情報は、株式会社ラクス(以下「当社」といいます)または協力会社が独自に調査したものであり、当社はその内容の正確性や完全性を保証するものではありません。