現代のビジネス環境において、企業が競争力を維持し、成長を続けるためには、常に効率性と生産性の向上を追求する必要があります。その中で、「業務改善」は多くの企業にとって重要な取り組みとなっています。しかし、業務改善と一言で言ってもその範囲は広く、具体的にどのように取り組むべきか悩む企業も少なくありません。
本記事では、業務改善の定義から、その必要性、メリット、具体的な進め方、そして成功のためのポイントまで解説します。
業務改善とは
業務改善とは、組織内の業務プロセスを見直し、効率化や生産性向上を図る取り組みのことを指します。
具体的には、無駄な作業の削減、作業手順の最適化、新たな技術やツールの導入などを通じて、業務の質と効率を高めていく活動です。現状のプロセスは、原則として維持されます。
業務改善の目的は、単に作業時間の短縮ではありません。顧客満足度の向上、スタッフの働きやすさの改善、コスト削減、そして企業全体の競争力強化など、多岐にわたる効果を生み出すことを目指しています。
重要なのは、業務改善が一時的な取り組みではなく、継続的なプロセスであるという点です。ビジネス環境や技術は常に変化しているため、定期的に業務を見直し、改善を重ねることが求められます。
業務改善の必要性
業務改善が注目される背景には、現代の企業が直面するいくつかの課題があります。これらの課題に対応するためにも、業務改善の重要性が高まっています。
人材不足
少子高齢化が進む日本では、多くの業界で人材不足が深刻化しています。経済産業省の調査によると、2050年には生産年齢人口の比率は約50%にまで落ち込むとされています。特に介護や建設、IT分野などでは、慢性的な人手不足に悩まされているのです。
このような状況下で、限られた人員で業務を遂行するには、個々のスタッフの生産性を高める必要があります。業務改善を通じて、効率的な働き方を実現することで、人材不足の課題に対応できます。
出典:2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について|経済産業省
働き方の多様化
テレワークやフレックスタイム制など、働き方の多様化が進んでいます。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、この傾向はさらに加速しています。これらの新しい働き方に対応するには、従来の業務プロセスを見直し、場所や時間に縛られない効率的な業務の進め方を構築する必要があるでしょう。
業務改善は、こうした新しい働き方への移行をスムーズにする上で重要な役割を果たします。
長時間労働の改善
働き方改革の一環として、長時間労働の是正が求められています。2019年4月から順次施行された働き方改革関連法により、残業時間の上限規制や有給休暇の取得義務化などが定められました。
業務改善を通じて無駄な作業を削減し、効率的な業務プロセスを構築すれば、労働時間の短縮と生産性の向上を同時に実現できます。これは、スタッフの健康維持やワークライフバランスの向上にもつながる重要な取り組みです。
業務改善のメリット
業務改善には、企業にとって多くのメリットがあります。これらのメリットを理解すれば、組織全体で業務改善に取り組む動機づけとなるでしょう。
生産性の向上
業務プロセスの最適化や無駄な作業の削減ができれば、同じ時間でより多くの成果を生み出せます。これは個人レベルだけでなく、組織全体の生産性向上にもつながります。生産性が向上すれば、新たな事業機会に取り組むための時間や資源を確保できるでしょう。
生産性向上の具体的な効果として、売上の増加により、より多くの製品やサービスを提供できるでしょう。また、迅速かつ質の高いサービスを提供できることにより、顧客満足度の向上も期待できます。さらに、余剰時間を新規事業の開発や改善活動に充てられます。
コストの削減
効率的な業務プロセスを構築すれば、人件費や運営コストの削減につながります。
例えば、作業時間の短縮により残業代を抑制したり、ペーパーレス化によって消耗品費を削減したりできます。また、ミスや手戻りが減るため、品質管理コストを抑えることにもつながるでしょう。
労働環境の改善
業務改善は、スタッフの労働環境の改善にも効果的です。無駄な作業や非効率なプロセスを排除によって、スタッフのストレスや負担を軽減し、ワークライフバランスの向上を図れるでしょう。これはスタッフの満足度やモチベーションの向上、さらには優秀な人材の確保・定着にも寄与します。
労働環境改善の効果として、ストレスの軽減によるメンタル不調者の減少や余裕のある労働環境による新しいアイデアの創出などが挙げられます。また、スタッフのエンゲージメント向上による組織全体の活力増進などもあるでしょう。
業務改善の進め方
業務改善を効果的に進めるためには、以下のような段階的なアプローチが有効です。各ステップを丁寧に進めれば、より確実な成果を得られるでしょう。
業務の見える化
まず、現状の業務プロセスを可視化する必要があります。各業務の流れ、所要時間、関わる人員などを明確にすれば、改善すべきポイントが見えてきます。
業務フローチャートやタイムスタディなどの手法を用いて、詳細な業務分析を行います。
業務の見える化の具体的な手順は以下のとおりです。
- 業務の洗い出し:部門ごとに行っている業務を全てリストアップする
- 業務フローの作成:各業務の手順を図式化し、作業の順序や関係性を明確にする
- 時間分析:各作業にかかる時間を計測し、全体の業務時間を把握する
- 人員配置の確認:各作業に関わる人員と、その役割を明確にする
- 問題点の洗い出し:業務フローや時間分析から、非効率な点や改善の余地がある部分を特定する
業務の見える化は、単に現状を把握するだけでなく、組織全体で問題意識を共有する重要な機会にもなります。可視化された業務フローを見ることで、普段気づかなかった非効率な部分に気づいたり、他部署との連携における課題が明確になったりするケースがあります。
課題の整理
業務の見える化によって明らかになった問題点や非効率なプロセスを洗い出し、整理します。この際、表面的な問題だけでなく、根本的な原因の特定が重要です。例えば、頻繁に発生するミスの背景にある業務設計の問題や、複雑すぎる承認プロセスなどを明らかにしましょう。
課題の整理にあたっては、「なぜ」を5回繰り返す「5Whys」分析が効果的とされています。表面的な問題から掘り下げれば、真の原因に到達できます。例えば、「納期遅延が多い」という問題に対して、なぜそうなるのかを繰り返し問うことで、「部品の在庫管理が不適切」という根本原因にたどり着けるかもしれません。
また、課題を整理する際には、それぞれの問題がビジネスにどの程度のインパクトを与えているかの評価も重要です。例えば、顧客満足度への影響、コストへの影響、スタッフのモチベーションへの影響などの観点から、各課題の重要度を評価しましょう。
優先順位付け
特定された課題に対して、改善の緊急性や重要性、実現可能性などを考慮して優先順位を付けます。全ての課題を一度に解決することは難しいため、最も効果が高いと思われる課題から着手することが重要です。
優先順位付けの際には、経営層の意向や現場の声もバランス良く取り入れましょう。トップダウンだけでなく、実際に業務を行っているスタッフの意見を聞けば、より実効性の高い改善計画を立てられるでしょう。
施策の検討
優先順位の高い課題に対して、具体的な改善施策を検討します。この際、関係する部署やスタッフの意見を積極的に取り入れることが重要です。現場の声を反映すれば、より実効性の高い施策を立案できるでしょう。
施策の検討にあたっては、ブレインストーミングやデザイン思考などの創造的な手法の活用も効果的です。従来の枠組みにとらわれない新しいアイデアが生まれる可能性があります。
また、他社や他業界の成功事例をベンチマークすることも有効です。似たような課題に直面し、成功裏に解決した企業の事例を研究すれば、自社にも適用可能なアイデアを得られるでしょう。
施策を検討する際には、その実現可能性や必要なリソース(人員、時間、コストなど)も併せて評価します。
理想的ではあっても現実的に実現困難な施策は、むしろ組織の士気を下げる可能性があります。短期的に実現可能な「クイックウィン」と、中長期的に取り組む本質的な改善策をバランス良く組み合わせることが重要です。
施策の実施
検討した施策を実際に実行に移します。ここで重要なのは、段階的な実施です。一度に大規模な変更を行うと、混乱を招く恐れがあります。小規模なパイロット実施から始め、徐々に範囲を広げていくアプローチが効果的です。
施策の実施にあたっては、明確な目標設定と進捗管理が重要です。具体的な数値目標(例:処理時間を20%削減、顧客満足度を10%向上など)を設定し、定期的に進捗を確認しましょう。また、施策の実施状況や効果を可視化し、組織全体で共有すれば、改善に向けたモチベーションを維持できます。
さらに、施策の実施過程では、スタッフのフィードバックを積極的に集めましょう。現場で実際に新しいプロセスや仕組みを使用するスタッフの声は、さらなる改善のヒントになることが多いです。
また、施策の実施に伴い、必要に応じてスタッフのトレーニングや教育も行いましょう。新しいシステムやプロセスの導入は、しばしばスタッフのスキルアップを必要とします。適切な教育支援を提供することで、スムーズな移行とスタッフの能力向上を同時に実現できます。
振り返りと改善
施策の実施後は、その効果を測定し、振り返りを行いましょう。当初の目標が達成されたか、新たな課題は発生していないかなどを確認します。必要に応じて施策の修正や追加の改善策を検討し、継続的な改善サイクルを回します。
効果測定には、定量的指標と定性的指標の両方を用いることが重要です。例えば、業務処理時間の短縮率や不良品率の減少などの定量的な数値だけでなく、スタッフの満足度調査や顧客からのフィードバックなどの定性的な情報も併せて評価します。
振り返りの際には、成功事例だけでなく、期待通りの成果が得られなかった点についても詳細な分析を行いましょう。失敗から学ぶことで、次の改善サイクルをより効果的に進められます。
また、振り返りの結果は組織全体で共有し、成功事例を他部門にも展開していくことが重要です。継続的な改善を実現するためには、この「実施→振り返り→改善」のサイクルを組織の文化として定着させなくてはいけません。定期的な改善会議の開催や、改善提案制度の導入など、スタッフが常に業務改善を意識できる仕組みづくりが効果的です。
業務改善に役立つフレームワーク
業務改善を効果的に進めるためには、さまざまなフレームワークやツールを活用することが有効です。
以下に、代表的なフレームワークをいくつか紹介します。これらのフレームワークは、状況や目的に応じて適切に選択し、組み合わせて使用すれば、より効果的な業務改善を実現できます。
ECRS
ECRSは、Eliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(再配置)、Simplify(簡素化)の頭文字を取ったフレームワークです。各業務プロセスに対してこの4つの視点から分析を行い、改善策を検討します。
Eliminate(排除)では、不要な作業や重複した作業を特定し、完全に取り除くことを考えます。Combine(結合)は、別々に行われている作業を一つにまとめることを意味します。Rearrange(再配置)は、作業の順序や場所を最適化することです。Simplify(簡素化)は、複雑な作業をより簡単にすることを指します。
ECRSフレームワークは、特に製造業や物流業など、定型的な作業が多い業種で効果を発揮します。しかし、どの業種においても、この4つの視点から業務を見直すことで、多くの改善機会を見出せるでしょう。
PDCAサイクル
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4段階を繰り返すことで、継続的な改善を実現するフレームワークです。業務改善においては、改善策の立案から実施、効果測定、そして次の改善策の検討までを、このサイクルに沿って進めれば、着実な成果を上げられるでしょう。
Plan(計画)段階では、現状分析を行い、具体的な改善目標を設定します。例えば、「3か月以内に注文処理時間を30%削減する」といった明確な目標を立てます。
Do(実行)段階では、計画に基づいて実際に改善策を実施します。この際、小規模なパイロット実施から始め、徐々に範囲を広げていくアプローチが効果的です。
Check(評価)段階では、実施した改善策の効果を測定し、目標達成度を評価します。定量的な指標(例:処理時間、エラー率など)と定性的な指標(例:スタッフの満足度、顧客からのフィードバックなど)の両方を用いて、多角的な評価を行いましょう。
Action(改善)段階では、評価結果に基づいて次のアクションを決定します。目標が達成できた場合は、その成功要因を分析し、他のプロセスにも展開することを検討します。目標未達の場合は、原因を分析し、改善策を修正または新たな施策を立案しましょう。
PDCAサイクルの強みは、継続的な改善が促進される点にあります。一度の改善で終わらせるのではなく、常に現状を評価し、さらなる改善の機会を探り続ければ、組織の競争力を維持・向上させられるでしょう。
BPMN(Business Process Model and Notation)
BPMNは、業務プロセスを視覚的に表現するための標準的な記法です。複雑な業務フローを図式化することで関係者間での共通理解を促進し、改善点の発見を容易にします。BPMNを活用すれば、現状の業務プロセスと改善後のプロセスを明確に比較できます。
BPMNでは、業務の流れをタスク(作業)、イベント(開始・終了点など)、ゲートウェイ(分岐・統合点)などの要素を用いて表現します。また、異なる部門や役割間の相互作用も明確に示せるでしょう。
BPMNの利点は、非技術者でも理解しやすい視覚的な表現方法を提供する点です。これにより、経営層から現場のスタッフまで、幅広い関係者が業務プロセスの全体像を把握し、改善に向けた議論に参加できます。
ロジックツリー
ロジックツリーは、複雑な問題を階層的に分解し、論理的に整理するツールです。業務改善において、課題の原因分析や改善策の検討に活用できます。
ロジックツリーの作成では、まず最上位に大きな課題や目標を置き、それを達成するために必要な要素を下位層に展開します。このとき各層の要素は、上位の要素を網羅的に説明できるように設定しましょう。
例えば、「顧客満足度の向上」という目標に対して、「応対品質の向上」「待ち時間の短縮」「商品知識の充実」などの要素に分解し、さらにそれぞれの要素を具体的な施策レベルまで掘り下げていきます。
ロジックツリーの利点は、複雑な問題を構造化し、全体像を把握しやすくする点です。また、チームでの検討の際に議論の枠組みを提供し、抜け漏れのない検討を促進します。
KPT(Keep,Problem,Try)
KPTは、振り返りのためのフレームワークで、現状の良い点(Keep)、問題点(Problem)、今後試したいこと(Try)を整理します。
Keepでは、現状のプロセスや取り組みの中で、うまくいっている点や継続すべき点を挙げます。これにより、改善の中でも維持すべき強みを明確にします。
Problemでは、現在直面している課題や問題点を列挙します。できるだけ具体的に、そしてその問題が及ぼす影響も含めた記述が重要です。
Tryでは、問題を解決するために試してみたいアイデアや取り組みを挙げます。これは必ずしも確実な解決策でなくても構いません。新しいアプローチの積極的な提案が重要です。
業務改善のプロセスにおいて、KPTを各段階での振り返りや定期的な業務の見直しに活用すれば、改善の方向性が明確になり、次のアクションにつなげやすくなるでしょう。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、企業が提供する製品やサービスの価値創造プロセスを詳細に分析し、競争優位性を確立するための手法です。主活動(購買、製造、物流、販売、サービス)と支援活動(技術開発、人事、経営インフラ)に分け、それぞれがどのように価値を生み出しているかを把握します。この分析を通じて、効率化できる部分や他社との差別化ポイントを見つけられるでしょう。
結果として、コスト削減や品質向上を図ると同時に、顧客に提供する付加価値を高める施策が見えてきます。
業務改善を進める際のポイント
業務改善を成功させるためには、以下のようなポイントに注意を払う必要があります。
まずは小さく始める
大規模な改革を一度に行おうとすると、組織に大きな負荷がかかり、スタッフの反発を引き起こす可能性があります。そのため、まずは小規模な改善から始め、その成功体験を組織全体に広げていくアプローチが効果的です。
例えば、複数人やチームでのメール対応の効率化から始めるのも一つの方法です。メール共有・管理システムを導入すれば、重複した対応を避けたり、情報の共有を円滑にしたりができます。具体的には、メールディーラーのようなツールを活用すれば、チーム内のコミュニケーションと顧客対応の効率を大幅に向上できるでしょう。
なお、メールディーラーを導入して業務改善に成功した事例について、こちらの記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。
業務改善の必要性をスタッフに理解してもらう
業務改善の成功には、スタッフの理解と協力が不可欠です。改善の目的や期待される効果を明確に説明し、スタッフ自身にとってのメリットも示すことが重要です。また、改善プロセスにスタッフを積極的に参加させれば、当事者意識を高め、より効果的な改善につなげるでしょう。
合理性ばかり重視しない
効率化を追求するあまり、顧客満足度やスタッフのモチベーションを損なうことのないよう注意が必要です。例えば、接客業務において、効率を重視するあまり顧客とのコミュニケーションの質を落とすことは避けるべきです。業務の本質的な価値を見失わないよう、バランスの取れた改善を心がけましょう。
アウトソーシングを活用する
全ての業務を自社で抱え込むのではなく、専門性が高い業務や一時的に発生する業務などは、アウトソーシングの活用を検討しましょう。これにより、自社のコア業務に集中でき、全体的な生産性の向上につながるでしょう。
システム導入や自動化を検討する
テクノロジーの進歩により、多くの業務の自動化が可能になっています。RPA(Robotic Process Automation)やAI技術の導入を検討し、定型作業やdata entryなどの業務を自動化することで、大幅な効率化を図れるでしょう。ただし、システム導入には初期コストがかかるため、費用対効果を十分に検討する必要があります。
まとめ
業務改善は、企業の競争力を維持・向上させるために不可欠な取り組みです。業務改善の実現は、生産性の向上、コストの削減、労働環境の改善など、多くのメリットをもたらす一方で、その実施には計画的かつ継続的なアプローチが求められます。業務の見える化から始まり、課題の整理、優先順位付け、施策の検討と実施、そして振り返りと改善というプロセスを通じて、着実に成果を上げましょう。取り組みを進める際は、ECRSやPDCAサイクルなどのフレームワークを活用すると効果的です。
業務改善を成功させるためには、小さな成功を積み重ねていくこと、スタッフの理解と協力を得ること、そして合理性だけでなく本質的な価値を大切にすることが重要です。さらに、アウトソーシングやシステム導入、自動化などの手法も適切に活用すれば、より大きな成果につなげられるでしょう。
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