医療業界は、人々の健康と生命を守る重要な役割を担っています。しかし、日々進化する医療技術や変化する社会ニーズに対応しながら、効率的な運営を行うことは容易ではありません。特に病院では、多岐にわたる業務を限られた人員と資源で遂行する必要があり、その効率化は喫緊の課題となっています。
本記事では、医療業界、特に病院が直面している課題を詳細に分析し、業務効率化のための方法や施策、役立つツールについてご紹介します。
医療業界・病院が抱える課題
医療業界、とりわけ病院は、社会の変化や技術の進歩に伴い、さまざまな課題に直面しています。これらの課題は、単に経営上の問題だけでなく、患者へのサービス品質や医療従事者の労働環境にも大きな影響を与えているのです。ここでは、主要な3つの課題について詳しくご紹介します。
人手不足
医療業界における人手不足は、長年にわたって深刻な問題です。この問題は、医師や看護師といった直接的な医療サービス提供者だけでなく、医療事務や管理部門にも及んでいます。
人手不足の背景には、複数の要因があります。まず、日本の少子高齢化により、医療需要が増加する一方で、労働人口全体が減少しているのです。特に地方では、若い世代の都市部への流出により、医療従事者の確保が困難になっています。
また、医療従事者の育成には長い時間と多大な費用が必要です。医師になるには最低6年間の大学教育と数年間の研修が必要であり、看護師も専門的な教育と国家試験の合格が求められます。そのため、急激な需要の増加に対して、供給が追いつかない状況が続いています。
この問題に対処するには、業務の効率化や自動化を進める必要があります。同時に、魅力的な労働環境を整備し、医療従事者の確保と定着を図ることが重要です。また、タスクシフティングや他職種との連携強化など、限られた人材を最大限に活用する工夫も必要となってきています。
非デジタル化・非ICT化環境における事務作業の負担
医療業界、特に病院における大きな課題の一つが、非デジタル化・非ICT化環境下での事務作業の負担です。多くの病院では、いまだに紙ベースの記録や手作業による事務処理が主流であり、これが業務効率の低下や人的ミスのリスク増大につながっています。
従来の紙ベースの記録システムでは、患者の診療記録、処方箋、検査結果などを手書きで記入し、それらを物理的にファイリングして保管する必要があります。この方法は、情報の検索や更新に時間がかかり、また保管スペースの問題も生じるでしょう。さらに、手書きによる記入ミスや判読の困難さも、医療サービスの質に影響を与える可能性があります。
また、紙ベースの記録は、異なる部門や他の医療機関との情報共有が困難です。たとえば、患者が他の病院に転院する際、診療記録のコピーや転記が必要となり、時間と労力がかかるだけでなく、情報の欠落や誤転記のリスクも高まります。
事務作業においても、非デジタル環境は大きな負担となっています。保険請求や会計処理、各種報告書の作成など、多くの業務が手作業で行われており、膨大な時間と人員を要しています。これらの作業は単調で時間がかかるだけでなく、ヒューマンエラーのリスクも高くなります。
労働環境の変化
医療業界、特に病院における労働環境は、近年大きな変化を迎えています。この変化は、社会全体の働き方改革の流れや、新型コロナウイルス感染症のパンデミックなどの外部要因によってさらに加速しているといわれています。
また、働き方改革も大きな要因の一つです。医療業界は長時間労働が常態化している業界の一つとして知られていましたが、2024年4月からは医師の時間外労働の上限規制が適用されることになりました。そのため、病院は医師の労働時間を適切に管理し、過重労働を防ぐ必要に迫られています。
この規制への対応は、単に労働時間を削減すれば良いというものではありません。医療の質を維持しつつ、いかに効率的に業務を遂行するかが課題となっています。たとえば、夜間や休日の当直体制の見直し、タスクシフティングの推進、ICTの活用による業務効率化などが求められています。
病院の業務効率化を進める方法・施策
病院の業務効率化は、前述の課題に対処し、より質の高い医療サービスを提供するために不可欠です。ここでは、具体的な方法や施策についてご紹介します。
マニュアルの作成
業務効率化の第一歩は、標準化された業務プロセスの確立です。そのために重要なのが、詳細かつ明確なマニュアルの作成です。
マニュアルは、日常的な業務手順から緊急時の対応まで、病院内のあらゆる業務を網羅する必要があります。たとえば、患者の受付から診察、検査、会計までの一連の流れ、医療機器の操作方法、感染予防対策、緊急時の対応手順などが含まれます。
マニュアルの作成にあたっては、現場の声を十分に反映させることが重要です。実際に業務を行っている職員の意見を取り入れれば、より実践的で使いやすいマニュアルになるでしょう。また、定期的な見直しと更新も欠かせません。医療技術の進歩や法規制の変更に合わせて、常に最新の情報を反映させる必要があります。
ペーパーレス化の推進
ペーパーレス化は、病院の業務効率化において非常に重要な施策の一つです。紙の使用を最小限に抑えれば、情報の管理や共有が容易になり、業務の効率化につながります。
ペーパーレス化の中心となるのは、電子カルテシステムの導入です。電子カルテにより、患者の診療情報を瞬時に参照・更新できます。その結果、情報の正確性と即時性が向上します。また、異なる部門間や他の医療機関との情報共有も容易になるでしょう。
さらに、処方箋や各種検査結果のデジタル化、会議資料や内部文書の電子化なども、ペーパーレス化の重要な要素です。これらにより、保管スペースの削減、検索時間の短縮、情報セキュリティの向上などの効果が期待できます。
医療事務代行の活用
医療事務は病院運営において欠かせない業務ですが、同時に多くの時間と労力を要する分野でもあります。そこで注目されているのが、医療事務代行サービスの活用です。
医療事務代行サービスは、保険請求業務、会計処理、各種報告書の作成など、専門的な知識と経験を要する業務を外部の専門家に委託するものです。これにより、病院職員は本来の医療サービスに集中でき、業務効率の向上につながります。
また、医療事務代行サービスを利用すれば、最新の法改正や制度変更にも迅速に対応できます。専門家が常に最新の情報を把握し、適切な対応を行ってくれるため、病院側の負担が大幅に軽減されるでしょう。
往診・オンコール代行の活用
医師の労働時間管理が厳しくなる中、往診やオンコール(緊急呼び出し)対応の効率化も重要な課題です。これらの業務は、不規則な勤務時間や緊急対応の必要性から、医師の負担が大きくなります。
そこで注目されているのが、往診・オンコール代行サービスの活用です。これは、専門の医師グループが病院に代わって往診やオンコール対応を行うサービスです。
このサービスを利用すれば、病院の医師は夜間や休日の負担を軽減できます。また、緊急時の対応を確実に行うことができるため、患者の安全性も高まるでしょう。
さらに、往診・オンコール代行サービスは、地域医療の維持にも貢献します。医師不足に悩む地方の病院でも、24時間体制の医療サービスの提供が可能になります。
他医療機関との連携強化
医療の高度化・専門化が進む中、単一の病院ですべての医療ニーズへの対応は困難になっています。そのため、他の医療機関との連携強化が業務効率化の重要な要素です。
具体的には、診療科の異なる病院間での患者紹介や、専門医への紹介システムの構築、医療機器の共同利用などが挙げられます。これらの連携により、各医療機関が得意分野に特化しつつ、患者への総合的な医療サービスの提供が可能です。
また、地域医療連携ネットワークの構築も重要です。患者の診療情報を地域内の医療機関で共有すれば、重複検査の削減や円滑な診療の引継ぎが可能になります。これは、患者の負担軽減と医療資源の効率的な活用につながるでしょう。
さらに、他の医療機関との連携は、医療従事者の教育や技術向上の機会にもなります。症例検討会や合同研修会などを通じて、知識や経験を共有できます。
接遇率の改善
病院の業務効率化を考える上で、接遇の改善も重要な要素です。接遇の質が向上すると、患者の満足度が高まり、スムーズな診療につながります。これは結果として、業務の効率化にも寄与します。
接遇の改善には、まず職員の意識改革が必要です。患者を「顧客」として捉え、丁寧かつ親切な対応を心がけることが重要になります。具体的には、適切な言葉遣い、礼儀作法、身だしなみなどの基本的なマナーから、患者の心理状態を考慮した対応まで、幅広い観点からの教育が必要です。
また、待ち時間の短縮や快適な待合室の整備など、患者の滞在環境の改善も接遇の一環として重要です。たとえば、診察の進行状況をディスプレイで表示したり、待ち時間を利用して健康情報を提供したりするなどが挙げられます。これにより、患者の不安や不満を軽減できるでしょう。
接遇の改善は、単に患者の満足度向上だけでなく、職員のモチベーション向上にもつながります。患者から感謝の言葉をもらえれば、仕事への誇りや喜びが生まれ、さらなるサービス向上への意欲が高まります。
ITツールの活用
最後に、ITツールの活用は病院の業務効率化において極めて重要な要素です。適切なITツールの導入により、多くの業務プロセスを自動化・効率化できます。
たとえば、電子カルテシステムの導入は、診療情報の管理と共有を大幅に効率化できます。また、オンライン予約システムの導入により、電話対応の負担を軽減し、予約管理を効率化できます。
さらに、AI技術を活用した画像診断支援システムや、ビッグデータ解析による疾病予測システムなど、最新のテクノロジーを活用すれば、診断の精度向上や予防医療の推進が可能になるでしょう。
また、院内のコミュニケーションツールとして、チャットシステムやビデオ会議システムの導入も効果的です。これらのツールにより、部門間の情報共有がスムーズになり、意思決定のスピードが向上します。
病院の業務効率化に役立つITツール
病院の業務効率化を進める上で、適切なITツールの活用は非常に重要です。ここでは、特に有用と考えられる7つのITツールについてご紹介します。
診療予約システム
診療予約システムは、患者の予約管理を効率化し、待ち時間の短縮や診療の円滑化を実現するツールです。従来の電話予約に加え、ウェブサイトやスマートフォンアプリを通じた予約が可能になれば、患者の利便性が向上します。また、病院側の電話対応の負担も軽減されるでしょう。
高度な診療予約システムでは、患者の過去の診療履歴や検査結果に基づいて、適切な診療科や医師を自動的に提案する機能を持つものもあります。そのため、患者は自身の症状に最適な診療を受けやすくなり、病院側も効率的な患者の振り分けが可能になります。
また、予約状況をリアルタイムで管理すれば、キャンセルが出た際の迅速な対応や、混雑状況に応じた柔軟な診療体制の構築が可能です。さらに、予約情報と電子カルテシステムを連携させることで、診療前の準備をスムーズに行えるでしょう。
診療予約システムの導入により、患者の待ち時間が短縮され、満足度が向上します。同時に、病院側も業務の効率化と平準化が図れ、限られた医療資源を最大限に活用できます。
ウェブ問診票
ウェブ問診票は、患者が来院前にインターネット上で症状や既往歴などを入力できるシステムです。そのため、診察前の問診にかかる時間を大幅に短縮できます。
従来の紙の問診票では、患者が来院後に記入する必要があり、待ち時間の増加や記入ミスなどの問題がありました。ウェブ問診票を利用することで、患者は自宅で落ち着いて詳細な情報を入力できます。より正確で包括的な情報を、医療機関に提供することが可能になるでしょう。
また、ウェブ問診票のデータは直接電子カルテシステムと連携させられるため、医師は診察前に患者の状態を把握できます。その結果、より的確な診断や効率的な診療が可能になるでしょう。
ウェブ問診票の導入は、患者の利便性向上と同時に、医療機関の業務効率化に大きく貢献します。ただし、高齢者など、インターネットの利用に不慣れな患者への配慮も必要です。従来の紙の問診票との併用や、必要に応じてスタッフがサポートする体制を整えることが重要です。
オンライン資格確認
オンライン資格確認は、患者の健康保険資格をオンラインで即時に確認できるシステムです。そのため、保険証の確認作業が大幅に効率化され、窓口での待ち時間短縮につながります。
従来は、患者が保険証を提示し、職員が目視で確認する必要がありました。この方法では、資格喪失や保険証の期限切れを見落とすリスクがありました。オンライン資格確認システムを利用すれば、常に最新の資格情報を確認できます。これにより、保険請求のミスを防げるでしょう。
また、マイナンバーカードを活用したオンライン資格確認では、患者の医療情報の安全な共有も可能です。そのため、複数の医療機関での重複検査の回避や、緊急時の迅速な医療提供につながるでしょう。
さらに、オンライン資格確認システムは、医療費の請求業務の効率化にも寄与します。資格情報が正確に把握できれば、返戻レセプトの減少や未収金の抑制につながります。
オンライン資格確認の導入は、窓口業務の効率化と正確性の向上を実現し、患者と医療機関の双方にメリットをもたらします。ただし、システムの導入には初期投資が必要であり、また、患者のプライバシー保護に十分な配慮が必要です。
電子カルテ
電子カルテは、患者の診療記録を電子的に管理するシステムです。紙のカルテと比べて、情報の検索や更新が容易であり、複数の医療従事者が同時に情報を共有できます。
電子カルテの最大の利点は、診療情報の一元管理です。患者の診療履歴、検査結果、投薬情報などを一つのシステムで管理すれば、医療従事者は必要な情報に迅速にアクセスできます。そのため、診療の質の向上と時間の短縮を同時に実現できるでしょう。
また、電子カルテは他のシステムとの連携も容易です。たとえば、検査機器や医療画像システムとの連携により、検査結果や画像データを自動的にカルテに取り込めます。これにより、データ入力の手間が省け、ミスのリスクも低減するでしょう。
電子処方箋
電子処方箋は、従来の紙の処方箋に代わり、処方情報を電子的に作成・送信・保存するシステムです。このシステムにより、処方から調剤、服薬指導までのプロセスが大幅に効率化されます。
電子処方箋の最大の利点は、情報伝達の正確性と迅速性です。医師が入力した処方情報が、直接薬局のシステムに送信されるため、手書きの処方箋の判読ミスや転記ミスを防げます。また、薬局での待ち時間の短縮にもつながるでしょう。
さらに、電子処方箋システムは薬剤の重複チェックや相互作用チェックなどの機能を持つことが多く、医療安全の向上に寄与します。過去の処方歴を参照すれば、適切な薬剤選択や用量調整が可能になるでしょう。
また、患者にとっても利便性が向上します。スマートフォンアプリなどを通じて自身の処方情報を管理できるようになり、服薬管理が容易になるでしょう。
電子処方箋の導入により、医療機関と薬局の連携が強化され、より安全で効率的な医療サービスの提供が可能になります。ただし、システムの導入には法的規制への対応やセキュリティ対策、患者のプライバシー保護など、慎重に検討すべき点も多くあります。
AI OCR
AI OCR(Optical Character Recognition)は、人工知能技術を活用した文字認識システムです。病院業務において、AI OCRは紙文書のデジタル化や、手書き文字の認識に活用されています。
たとえば、紙の問診票や同意書などの文書をスキャンし、AI OCRで文字を認識することで、電子カルテへの情報入力を自動化できます。そのため、データ入力の手間が大幅に削減され、入力ミスのリスクも低減するでしょう。
また、AI OCRは手書き文字の認識精度が高いため、医師の手書きカルテや処方箋の電子化にも活用されています。これにより、過去の紙カルテの電子化や、紙の処方箋の読み取りなどが効率化できるでしょう。
メール共有管理システム
メール共有管理システムは、病院内での情報共有とコミュニケーションを効率化するシステムです。従来の個人メールアドレスでのやり取りに代わり、部門やプロジェクトごとに共有フォルダを設定し、関係者全員で情報を共有できます。
このシステムの最大の利点は、情報の一元管理と透明性の確保です。たとえば、患者からの問い合わせや他の医療機関からの連絡を共有フォルダで受け取れば、スタッフ不在時でも適切に対応できます。また、やり取りの履歴がすべて記録されるため、後から経緯の確認も容易です。
さらに、高度なメール共有管理システムでは、メールの自動振り分けや、テンプレート返信機能、タスク管理機能など、業務効率化につながる機能を持つものもあります。これらの機能を活用すれば、日常的なコミュニケーションの効率が大幅に向上します。
また、メール共有管理システムは、部門間や職種間の連携強化にも役立ちます。たとえば、診療科間での患者情報の共有や、医療スタッフと事務スタッフの連携など、横断的なコミュニケーションが促進されます。
まとめ
医療業界が抱える主要な課題には、人手不足、非デジタル化・非ICT化環境における事務作業の負担、労働環境の変化の3点を挙げられます。これらの課題は相互に関連しており、一つの解決策ですべての解決は困難です。
しかし、さまざまな方法や施策を組み合わせれば、効果的に対処できるでしょう。病院の業務効率化は、単に経営の改善だけでなく、医療の質の向上、患者の満足度向上、そして医療従事者の働き方改革にもつながる重要な取り組みです。各病院の特性や課題に応じた最適な効率化策を見出し、実践していくことが望まれます。そうすれば、より良質な医療サービスを持続的に提供できる体制を構築できるでしょう。
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